恋愛セミナー77【蜻蛉】第五十二帖 <蜻蛉-2 かげろう> あらすじ浮舟が生きていたら、京に迎えていたはずの四月になりました。 橘の香りやホトトギスの声を聞くと薫の悲しみはいっそうつのり、二条院へ歌を届けます。 「あなたも忍び泣いているのだろう、死出の鳥といわれるホトトギスに甲斐もない思いを通わせて。」 中の姫と浮舟を思い出していた匂宮。 「橘の香るあなたの周りではホトトギスはいっそう心をこめて泣いているのでしょう。」 匂宮と浮舟のことを、始めから承知していた中の姫。 大姫や浮舟が儚く世を去ったあとに自分だけが残ったのを侘しく思います。 「浮舟のことを秘密にしていたのが悔しくて。」 どうしても亡き人を思い出してしまう中の姫を前にして、感慨を深める匂宮なのでした。 匂宮は浮舟が亡くなったときのことを知りたいと、時方を宇治へつかわします。 悲しみの癒えない右近は、二条院への誘いを断りますが、代わりに侍従が京へ向かいました。 「泣き沈んでおられても、まさか入水なさるとは。文を焼いているときに気がついていたらと。」と侍従。 浮舟の思い出話を匂宮と話して止みません。 匂宮は今後は中の姫に仕えるようすすめますが、侍従は浮舟の法事が全て終わってからと宇治へ戻りました。 薫も浮舟のことを知るために宇治へ向かいます。 「何故こうも宇治と因縁があり辛い思いをするのだろう。八の宮のもとで仏道修業をするつもりが 恋の道に分け入って俗にまみれた私への、仏の報いなのか。」 山荘に着き、右近から事情を聞いた薫は、浮舟は入水したと知って驚愕しました。 右近が匂宮と浮舟は文を交わしていただけと言うのを、周囲の者なら取り繕うのも当然と思います。 「匂宮と私との間で悩み、身を投げたのだろう。あの川のそばに置いていた私のせいなのだ。」と、 宇治川のことを疎ましく感じ、中の姫が浮舟のことを川に流す「人形」に例えたことにもまがまがしさを覚える薫。 浮舟の母君の悲しみを思いやり、一人虚しく京へ帰る薫は水底に沈んだ浮舟の哀れさに心を痛めるのでした。 母君は浮舟の死のけがれに触れたため、お産を控えた娘のいる常陸の守の屋敷へ帰ることができないまま あの三条の家に身を寄せていました。 そこへ薫からの親身な文が届けられ、悲しみの中にも嬉しさが混じる母君。 薫は浮舟の弟たちの後見をすると約束し、この縁を娘を亡くした母君にとって甲斐あるものにしようと 決心しています。 常陸の守はお産にも帰ってこない妻に立腹していましたが、事情を聞いて浮舟のもたらした縁に感激します。 宇治の法事も、薫によって立派に行なわれているのを見て、浮舟の足元にも及ばない身だったと知る常陸の守。 中の姫も法事のために立派な布施をします。 帝も薫が宇治に思い人がいたことを知り、女二宮のために気苦労させてしまったのをいたわしく思うのでした。 恋愛セミナー77 1 薫と浮舟 哀しき因縁 2 匂宮と浮舟 思い出を探して 失ったものの大きさを辿るシーンです。 匂宮のことを、知って何も言わなかった中の姫。 さとしたところで、納得する夫ではないと諦め、ただ妹を哀れに思っています。 浮舟を思い出してしまう中の姫を前にして、繰り言を言い続けるほどの気強さはない匂宮。 薫にあてこすられても、恋を共有した同士として共に悲しもうとしています。 侍従を呼び寄せたのは、あの宇治川を一緒に渡った夜の印象が強いから。 浮舟との恋の目撃者。 彼女もまた、匂宮と恋を共有していたと言えるでしょう。 匂宮と薫の浮舟への罪滅ぼしは、残された者たちを引き立てること。 侍従には安楽な宮仕えを、浮舟の親族には栄達を。 どれも二人にとって、取るに足らないことですが、恩恵を受ける者たちにとってその影響は大きい。 知事クラスの常陸の守がいままでの態度を急変させ、浮舟をあがめるようになる。 それも浮舟が生きていなければ、母君にとって何の甲斐があるでしょう。 |